パン屋がホームページを活用したら・7

7・呑み屋のパン屋

ハルノリは久しぶりに酒を酌み交わした友達に、ホームページをリニューアルしたことを話していた。

安くてきれいなホームページができたこと、スマートフォンやSNSにも対応していること。30万円は下らないと言っていた同じ自営業の友達に、自慢したい気持ちがあったのだろう。

妻が更新の文章を考えているから、見てやってくれとノロケたりもした(ちなみに春日家は今年結婚10週年を迎える)。

お前んとこは相変わらずラブラブだなぁ〜と囃し立てつつも、その男は刺身をつまみながら、何事でもないように核心を突いてきた。

「で、どんくらい売上あがった?」

表情が一瞬こわばったのを悟られないように、ハルノリはくわえていた煙草をもみ消す。

「や〜…これからだって話なんだけどな〜。まだ2ヶ月だし。半年くらいはかかるって」
「それは確かに一理あるな。アクセス伸びてる?」
「アクセス?ああ、アメブロの方は1日20件くらいになったな。前のホームページがアレだから、伸びてんじゃねえのかな」
「ホームページの方は?」
「カウンター取っ払ったからよくわかんねえなぁ…」
「それマジかよ。検索でひっかかんのか?」
「ああ、”パンドムー” ではちゃんと表示される」
「そりゃ当然だろうが」

男は箸を置いてスマートフォンを取り出す。片手でお猪口を傾けながら、無言で画面に指を滑らせている。
ハルノリは、じりじりと湧き上がる動揺を抑えこむように、ビールを煽った。

「………なんて名前だっけ?頼んだ会社」
「あーっと、アグレッシブ…ナントカ」

男は溜息のように小さく声を漏らしてスマートフォンの画面を消すと、空になった杯にガラスの徳利を傾ける。揺れる水面は、ハルノリの心を表しているようだった。

「いくらで何年リース組まされた?」
「は?リース?」
「契約期間あったろ?」
「それなら確か、5年だったかな。月1万円のプランで。なんだ、知ってたのかよ」
「ある意味有名ドコロだよ。前に会った時に言うんだったな……」

男は短い髪をポリポリと掻いて、苦い顔をしながら何かを計算するように指を折っている。

「1年は12ヶ月だよな。…で、月1万で、5年。トータルでいくらになる?」
「60万だろ?初期費用は10万弱だったから、5年間で70万。でも、結局かかる金額なら、このくらいは仕方ねえんだろ?」
「オレは最初の1年間で50万払ったが、1年間以内に回収した。今はホームページからの利益は月5万くらいかな」
「利益でか?」
「利益で」
「月にいくらか、かかってるんだろ?」
「目に見える金としては、今は3万だな。あとは人件費に埋もれてんなあ」
「人件費?」
「スタッフ全員がホームページを管理してっからさ」

もうちっと増やしたいんだけどな〜と呟きながら、彼はまた杯を空にして、店員に追加を頼む。多少赤らんでいるものの、素面の時と変わらない。すぐに赤くなるハルノリとは対照的だった。

「…パソコン使える奴がうらやましいよ」
「一応オレだけがパソコン使ってるけどな、腕なんかお前とたいして変わらねえよ。あとは全員スマホだし」
「スマホで更新してんのか」
「写真や動画撮って、すぐアップできるしな」
「今の時代はすげえなあ…」
「オレの自慢話してんじゃねえよ。お前は今のままで何とかなると、本気で思ってんの?リースの意味わかってんのか?」

ここで反論しなくてはと思うものの、言葉が出てこない。アルコールのせいだ、畜生。
冷えて曇っているガラスの徳利を店員が持ってきた。男はそれを受け取って、早速注ぐ。

「…リース契約ってのはな、お前んとこのホームページは、お前のものではなく、借り物ってことになるんだよ」
「だって、月々レンタルしてんだろ?」
「それは、ホームページを公開している土地のことな。お前んとこにある写真も、文章も、みーんなリース会社のものなんだよ」
「はぁ?」
「要するにだな、例えば月額費用が今の半額になるなら、どうする?」
「は?……だって、月々1万かかるのが相場だって」
「オレんとこは、システムメンテ入れても月5,000円。あとは売上をあげるためのコンサル料」

ハルノリは呆然とするしかなかった。月々5,000円?ホームページに、コンサル?
そういえば、パンフレットにコンサルプランという文字があったのを思い出した。月々10万円だったか。

「ちょっと待てよ、コンサル?入れて、3万?」
「最初はもっとかかったけどな。今は順調だから下げてもらった」
「5,000円で何してんだ?」
「お前んとこが1万でやってる内容とほとんど一緒だろうな」
「なんで倍も違うんだよ!」
「リースの説明を、ちゃんとしない会社だからだろうよ……それでまあ、半額にしたいと思って引っ越しを考えても、今載っている写真や文章は使えないってことだ」

ハルノリは頭の中がサアっと白くなるのを感じた。言葉が出てこない。
説明はされた記憶はあるが、何が問題なのかがよくわからなかった。写真や文章が使えなくなるということも知らなかった。
だが、冷静になれ。安くは抑えられているはずだ。

「……今のところを使い続ければ、お前のとこよりかからねぇよな?」
「ああ。費用は抑えられるが、売上も伸びねえだろうな。ヘタすれば赤だな」
「なんでだよ」
「まずな、管理画面の使い方がわからなければ、講習費用がかかる。差し替えたい画像を作って欲しい時は、その制作費用を請求される。売上アップしたい提案をもらいたいときは、別のプランを薦められる」
「更新は自由にできるようになってるはずだが?」
「なら自分たちでがんばればいい。オレは試行錯誤してもダメだったから、別のプロに頼んだ」

男は、ゆっくりと酒を注ぎ、徳利を置いた。

「オレもな、まだ払い続けてんだよ。リース会社に」

ハルノリは混乱してきた。何をしたら一番いいのかわからない。とりあえず、ジョッキに残っていたビールを飲み干す。くらくらする。

「……オレ、どうしたらいいんだ?」

お猪口を手にとって、男は空になったビールジョッキの縁に当てる。キン、と、軽快な音が小さく響いた。

「イイトコ紹介してやるよ。でも、覚悟はしとけよ」

次:パン屋がホームページを活用したら(8・わかりやすいパン屋)

※この物語はフィクションであり、実在する企業名、団体名、地名、および人名等とは一切関係ありません。

ウェブの心理戦略家。WordPressの勉強会(WordBench新潟・長岡藩)も主催。顧客の心理と分析を裏付けるデータを元に、心理学に基づいたライティングとWordPressでのサイト構築が得意。新潟県長岡市在住。2013年4月には新潟県で初のウェブ解析士マスターになり、同年6月よりコスギスとして活動。夫と子ども2人をこよなく愛す。おやつはプリン。

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