パン屋がホームページを活用したら・3

3・翻訳するパン屋

そのアグナントカというところの営業マンは、次の定休日に訪ねてきた。
名刺には「営業 世田谷アツシ」と書かれている。社名は「株式会社アグレッシブ・アドバンテージ・ウェブ」とかいう長い名前で、横文字に弱い妻が覚えられないのも無理はないと、ハルノリは思った。

彼らの目の前にあるチラシはこうだ。

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アルファベットにはフリガナが振られており、欄外に機能の説明とメリットが簡潔に書かれている。
チラシの裏面には、実際の実績として地元の中小企業のホームページ画面がいくつも掲載されていたが、新たに見せられたパンフレットには、それ以上の実績が掲載されていた。

それぞれの項目の効果はいまひとつ理解できないが、掲載されているホームページはどれも美しく、まとまりのあるデザインだと感じられる。奇抜なデザインだと使い勝手が悪くなるので、セオリーがあるのだと営業マンは言った。

「へぇ〜……あ、ここ、新村さんの!」

パンフレットを眺めていたムツミが声を上げた。

「ヘアメイクサロン・ヴィラ様ですね。大変ご満足いただきましたよ」

男は誠実な笑みを浮かべて、ひとつの実績を手の平で指し示しながら、うなずいてみせる。パワーあふれる20代後半といったところか。
妻が挙げた名前だけで顧客がすぐわかるのなら、信用しても良さそうだなとハルノリは思った。

名刺をもう一度手にとって裏返してみる。「ホームページはトータルでサポート!」と、業務内容が細かく記載されていた。

しかし、気になるところはいくつもある。

「この、ランニングコスト1万円というのは?」
「はい、ホームページを運用するためには、Webサーバの環境維持が必要になるため、このランニングコストの中で対応させていただきます。ホームページには管理画面がありますので、内容はご自由に変更可能です」

ハテナマークが浮かびはじめた妻に言い含めるように、ハルノリはひとつずつ翻訳しながら聞き返す。

「確認ですが……ホームページを動かすための環境を、御社から借りるわけですよね?」
「はい」
「そして専用の画面から、私たちがいつでも、ホームページの内容を変更できる、ということですよね?……例えば、価格を変更したい時や、写真を変えたい時など」
「はい、可能です」
「その環境と専用画面の管理を、すべて月額の費用内で、対応いただける、という認識で合っていますか?」

仰るとおりです、と、若い男はうなずいた。ようやくムツミから感嘆の声が漏れる。
翻訳係となった夫は短く伸ばしたアゴの髭を掻きながら、質問を続けた。

次:パン屋がホームページを活用したら(4・横文字とパン屋)

※この物語はフィクションであり、実在する企業名、団体名、地名、および人名等とは一切関係ありません。

ウェブの心理戦略家。WordPressの勉強会(WordBench新潟・長岡藩)も主催。顧客の心理と分析を裏付けるデータを元に、心理学に基づいたライティングとWordPressでのサイト構築が得意。新潟県長岡市在住。2013年4月には新潟県で初のウェブ解析士マスターになり、同年6月よりコスギスとして活動。夫と子ども2人をこよなく愛す。おやつはプリン。

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