パン屋がホームページを活用したら・2

2・迷えるパン屋

――― 事の起こりは、1年前にさかのぼる。

「ホームページに10万だぁ?」

夫、ハルノリは、明らかに機嫌が悪そうに煙を吐いた。

以前よりだいぶ客足が減っているとはいえ、仕事量は大して変わらない。明日は定休日のため夜の仕込み作業は休めるが、一日を終えた疲れが不機嫌に輪をかけているのだろう。時間があれば、寝たいのだ。

「そもそもホームページなんて何の役にも立たねえし、手をつけられねえからって、ほったらかしてるのはお前だろうが」
「それはそうだけど……」

パン・ド・ムーのホームページは、3年ほど前にムツミの友達に無料で作ってもらったことがあった。しかし、その友達が東京に行ってからは連絡をほとんど取れなくなり、ムツミは何もできず、宙ぶらりんの放置状態になっている。

店頭に並べるパンの値段を変えた時、一度、ホームページを見て来たという客と料金トラブルがあった。それ以降、価格の表示だけは消すようにお願いしたが、その時の友達の対応に不満を感じ、ムツミは夫に愚痴ったものだった。

ホームページなんて見る人はいないし、見たって変な人が来るだけだし、更新する時間もないし、もうなくていいよね!と。

それでもホームページを閉鎖しなかったのは、疎遠になったとはいえ友達の顔を立てておきたいこと、アクセスカウンターが少しずつでも増えていること。

そして、インターネットを契約しているところ(夫は「プロバイダな。」と教えてくれるが、彼女はいつも忘れる)のホームページサービスを利用しているため無料であることなどが理由だった。

だからこそ、10万円という金額は決して安くはない。
夫の顔を見ないようにしながら、ムツミは話を続けた。

「でもさ、今度はちゃんとプロに頼んで、お客さんを呼べるようにできるから!」
「はぁ、どうやって?」

半分呆れながら煙草をくゆらすものの、話は聞いてくれる夫。感謝の気持ちを伝えるのはまた今度にして、彼女は指を折りながら自信満々に言い放った。

「アメブロと、フェイスブックと、ツイッター!」

ハルノリはため息をつくのと同時に煙を吐き出し、煙草を灰皿に押し付ける。まだ長いのにもったいないな、とムツミはいつも思う。

「……アメブロはともかく、FacebookとかTwitterなんて、お前知ってんの?」
「よくわからないけど、プロがそう言ってるから、たぶん大丈夫でしょ?」
「やっぱわかんねぇんだな……だいたい、お前ガラケーだろ?」
「だから、アイフォン買って!」

さすがに男は絶句して、苦笑した。

そもそも彼は、妻のムツミよりはインターネットに明るいと自負している。
FacebookやTwitterを自分で使っているわけではないが、どんなものなのかは知っている。
ニコチン休憩の時間には、iPhoneをいじりながらネットのニュースを見ているため、ある程度の知識はある。店舗と厨房では完全禁煙を言い渡されているため、ささやかな楽しみ程度だが。

そんな彼が友達と飲んだ時に、ホームページを作るのに30万はすると聞いたことがあった。その3分の1で済むのは助かるが、デザインがダメとか、広告が入るとか、裏のカラクリがあるのだろう。

iPhoneをもう一台買うかどうかはともかく、実際に売上はゆるやかに落ち続けているので、経営者として話は聞いておいてもいいかもしれない。
何より金のかかる話だ。妻が暴走することだけでも避けておかなくてはならない。

「……で、そのプロって誰だ?」
「えーっと、地元番組でCM出してる、アグナントカってところ。ちょっと待って、チラシ持ってくる」

店舗と住居が一体になっているため、ムツミの足音が下っていったということは、どうやら店に営業に来たのだろう。その間に男は3本目の煙草に火を点け、妻を待った。

話が進んでいるようなら、しっかりと釘を差しておくべきだなと思いながら。

次:パン屋がホームページを活用したら(3・翻訳するパン屋)

※この物語はフィクションであり、実在する企業名、団体名、地名、および人名等とは一切関係ありません。

ウェブの心理戦略家。WordPressの勉強会(WordBench新潟・長岡藩)も主催。顧客の心理と分析を裏付けるデータを元に、心理学に基づいたライティングとWordPressでのサイト構築が得意。新潟県長岡市在住。2013年4月には新潟県で初のウェブ解析士マスターになり、同年6月よりコスギスとして活動。夫と子ども2人をこよなく愛す。おやつはプリン。

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