パン屋がホームページを活用したら・1

1・幸せになれるパン屋

「ありがとうございましたー!」

10時に開店してから、すでに何度目だろうか。
弾むような明るい女性の声が、狭い店内に響く。

店のロゴが刺繍された三角巾とエプロンを身につけたその女性は、「幸せになれるパン屋」として知られる “パン・ド・ムー” の店長、春日ムツミだった。

「いらっしゃいませ!」

レシートを持ってきゃあきゃあと話しながらパンを持ち帰る学生グループを見送りながら、新たに入ってきたサラリーマン風の男性を迎える。

初めてのお客様かな、と思いながら「お会計、777円になります」と、レジに並んでいた親子に声をかける。パンを物色していた先ほどの男性の視線を感じた。

「ホントだ!7がみっつだ!」
「ね、何かいいことありそうだね?」

含みを持った笑顔で若い母親が出したのは、千円札、100円玉、10円玉が1枚ずつ。

「ひとつずつ?」
「そう、ひとつずつ」

首を傾げてわくわくしている表情に微笑みながら、ムツミは中途半端とも思えるその料金を手早くレジに打ち込んだ。

「はい、333円のお釣りになります」
「今度は3がみっつだー!」

就学前と思われる少年が、目をキラキラさせて驚いている。レシートを宝物のように手にする親子を、子どもがいればこんなふうに笑い合えるんだろうなと思いながら、ムツミはにこやかに見送った。

「ありがとうございましたー!」
「ありがとうございました!」

少し遅れて厨房の奥から顔を出した男性の声が響いた。
レジの叩く妻の横に何やら置いてから、引き締まった腕でトレイを抱えて店内に姿を現す。

「ただいま “爆弾おからパン” が焼きたてです!」

ごろっとして黒く丸い、しかしふんわりと甘い香りのするパンの乗ったトレイが入れ替えられると、先ほどのサラリーマンが早速トレイに移して満足そうにしている。

すでに料金を釣り銭入れに出していたレジの前の大学生は、ムツミの読み上げる777という数字に思わずニヤッとしながら、等分に切られた黒いパンをつまみながら会計を待つ。
これは豆乳がはかどるな、などと思いながら。

「777円、ちょうどいただきます。ありがとうございましたー!」

そして店内をあれこれと物色していたサラリーマンがレジに並ぶ頃、新たな訪問者によって入り口のドアが開かれる。名札をつけた地元の小学生2人を連れた親子を、元気なムツミの声が迎えた。

「いらっしゃいませー!」

次:パン屋がホームページを活用したら(2・迷えるパン屋)- コスギス

※この物語はフィクションであり、実在する企業名、団体名、地名、および人名等とは一切関係ありません。

ウェブの心理戦略家。WordPressの勉強会(WordBench新潟・長岡藩)も主催。顧客の心理と分析を裏付けるデータを元に、心理学に基づいたライティングとWordPressでのサイト構築が得意。新潟県長岡市在住。2013年4月には新潟県で初のウェブ解析士マスターになり、同年6月よりコスギスとして活動。夫と子ども2人をこよなく愛す。おやつはプリン。

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